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カリフォルニアでのABA体験

レイくんママ

長男レイは、3歳になった月に、リージョナルセンターのサイコロジストにより自閉症という診断を受けました。当時の彼は、非常に多動で落ち着きが無く、集団行動は全くできず、言葉は殆ど無く、多くのこだわりと感覚障害がありました。

言葉が遅れていること、他の子供たちとあまりにも“違う”ことが気になり、インターネットでいろいろと検索し、恐らく息子は“自閉症”であろう…という予想はある程度ついておりました。しかしそれと同時に“まさか”という気持ちもあり、2歳頃から気になっていたものの、診断を受ける勇気がなく、約1年が経過しました。

小児科での定期健診でも、何か指摘されることはありませんでした。“言葉が遅れているようなのですが…”と相談しても、“子どもはそれぞれ成長の速度が違う、バイリンガル環境ということで戸惑っているだけ、もう少し様子を見ましょう”と言われるだけでした。3歳検診の際には、“この子は自閉症ではないかと思うのですが…”と先生に聞いてみましたが、“この子に自閉的な部分は見られない”“あなたは自閉症を知らない”と言われるのみでした。

待合室では落ち着いて待っていられず、走り回ったり、椅子や机に登ろうとしたり、そして待ち時間が長いと、癇癪が始まり、床に寝転がり大騒ぎ。診察室内で先生を待つ間も、すきさえあれば部屋を逃げ出し、走り回る。どうして、周りの子のようにできないのだろう。どうして、この子はこんなに手がかかるのだろう…。でも、これも個性なのか。疑問符はいつになっても消えませんでした。

息子は一歳半から私と共に、“Mommy and Me”という親子教室のようなものにいくつか通っていました。 2歳を過ぎた頃から、息子と周りの子供たちとの”違い“がはっきりとし始めました。

みんながお母さんと一緒に輪になって座っている中、うちの息子は私から離れ、窓のブラインドで遊んでいました。教室の移動の際、その教室に入るのを嫌がり大パニックを起こすこともありました。周りの子が喜んで飛びついていく楽器類やおもちゃ類などには目もくれず、気がつけば、教材の入った戸棚を開け閉めしていました。”うちの子はどうしてみんなと同じことが出来ないのだろう…“と、帰りの車の中で何度も何度も声を出して泣いたのを覚えています。

2歳半を過ぎた頃から、プリスクールに入れることを考え始め、何箇所か面接を受けに行きましたが、“お子さんにはまだ集団行動は早いでしょう“とことごとく断られました。そんな中、何箇所目かで行った幼稚園の園長先生が初めて、”この子はカセットテーププレイヤーなどのボタンに異常な興味を示しませんか?“”車やおもちゃを並べたりしませんか?“と質問してきました。インターネットでいろいろと調べていてたどりついた”自閉症“という障害。園長先生の質問は、その自閉症の特徴を羅列するものでした。それがわかったので、私の方から”もしかしたら、この子は自閉症ではないかと思うのですが…“と切り出してみました。

すると園長先生は、”お母様がそう思われるのなら、一度専門の先生に診ていただいてはどうでしょう“と、どこに連絡を取るべきなのか、教えて下さいました。そのときに初めてリージョナルセンターの存在も知りました。この園長先生のおかげで、やっと最初の一歩を踏み出すことができたのです。

リージョナルセンターで初めて診断を受けた際のアセスメントでも、椅子に全く座ることが出来ず、出された課題も、ひとつもこなすことができませんでした。アセスメントが始まって5分以内に、自閉症の診断が下りたため、“何もしないでなぜ自閉症とわかるのでしょうか?”とサイコロジストに尋ねた事を覚えています。今思えば、どうみても明らかに彼は自閉症でした。

私たちの住んでいるカリフォルニアでは、3歳からは学校区の管轄となり、診断が下りると、公立小学校に付属する障害児のための幼稚園(プリスクール)に通うことになります。私たちの住む町の学校区では、区内に8つの小学校があります。そのうちの一校に、障害児のための特別プログラム(LIFT:Learning Is Fun Together) を行っているプリスクールがあり、息子もその学校へ通うことになりました。

3歳3ヶ月から学校に通い始めました。学校は、毎日8時15分から11時35分までで、朝の会のようなもの(カレンダーや季節について学ぶ時間)、スピーチ、工作、体育、作業療法 歌を歌ったり、お話を聞いたりするサークルタイムなどが行われます。学校に入る前の学校区によるアセスメントにより、息子には感覚的な問題が大きいことと、手先を使う作業の遅れが顕著なことから、学校での1対1の作業療法(OT)を隔週30分、学校外でのクリニックでの1対1の作業療法を週1時間、また、言葉は語彙が10語程度でコミュニケーションスキルが著しく遅れているということで、学校での1対1のスピーチセラピー(ST)を毎日15分受けることになりました。

さらに、その学校では、IBI(Intensive Behavioral Intervention)と呼ばれる、ABAを基本とした行動療法が行われており、息子も3歳6ヶ月より学校で1時間、放課後に1時間の1:1のIBIを受けました。このIBIの時間を通して、息子は様々なことを学びました。それが今の息子の基礎となっていると思います。また同じセラピストを個人的に雇い、家に帰ってからも週3回2時間のセラピーをお願いしていました。

息子は当時、ブロックを積み上げたり、車を並べたりする遊び方以外していませんでした。セラピストは、長い画用紙に家、ドーナツ屋さん、アイスクリーム屋さんなどを息子と一緒に描き、その上に車を走らせて、“今度はどこに行こう?”など息子に質問しながら、“車は走らせるもの”という意識を息子に教えました。女の子のドールハウスを使い、赤ちゃんのお世話の真似を通して、“人形はこうやって遊ぶもの”という意識を息子に教えました。またブロックで息子の好きなロボットを作り、“ブロックで物を作れる”という意識を息子に教えました。息子が車を並べ始めたら、それを“クラッシュ!”と遊びを通して何度も崩し、“ブブー”“ブブー”と走らせることを、何度も何度も見本で見せて真似をさせました。

息子は、何度やっても、全く興味を持たず、自分からそのような遊び方をすることはありませんでした。しかし、半年程経った頃に、ふと見るとブロックで上手にロボットを作っていました。そしてそのまた半年後くらいには、ウルトラマンのフィギュア同士を戦わせるようになりました。

また、先の見通しを立てやすくするため、そしてほとんど言葉を発していない息子のコミュニケーションの道具として、学校で用いているPECSを自宅用に作り、自宅のセラピーの際にも活用しました。最初は、身の回りの物の写真を撮り、ラミネートしたものを使用していましたが、“今日の予定”などを息子に見せる場合には、細長い紙に大体4つ四角を書き、その中に“1.レイチェル(セラピストの名前)”“2.ぬりえ”“3.パズル”“4.絵本”などと、私が絵と文字を書いて写真の代わりに見せました。この方法だと、万が一外出先で予期せぬ変更があった場合にでも、すぐ紙に書くだけで、息子を落ち着かせることができました。また、たまに四角の1つを“?”マークにし、急な予定変更にも徐々に対処できるように訓練しました。

息子が自閉症だと分かったときから、様々なリサーチをし、ABAのことも知りました。学校でのIBIによって、息子はそれなりに伸びました。しかし、時間数が少ないこと、そしてエージェンシーによるもっとインテンシブなセラピーを受けさせたくて、エージェンシーによるABAの公費の負担を、リージョナルセンター、学校区の両方に対し、学校が始まった際にリクエストしていました。 当初は何も分からず、こちらがリクエストすれば当然もらえるものと思い、ただただお願いする日々でした。しかし、親が希望するだけでは何も動かないことに気付き、アドボケイト(障害児の権利を擁護するために代弁してくれる人)を雇い、IEPミーティングに連れて行くようになりました。しかし、何度ミーティングを開いても前に進めず、結局弁護士を雇い、訴訟を起こすこととなりました。

その間、UCLAの自閉症クリニックで正式なアセスメント、プライベートサイコロジストによるアセスメントを受け、息子にどうしてABAが必要なのか、レポートを書いてもらいました。その後、ABAの効果を実証するため、実費でエージェンシーによるABAを3ヶ月しました。ABAエージェンシーは、ここ南カリフォルニアにはかなりの数が存在しますが、実費にて始めるにしても、どこも非常に長い順番待ちがあり、私も4社にてウェイティングリストに載せてもらいましたが、一番早く空きがでたのがABCというエージェンシーで、それでも最初に申込用紙を送ってから1年かかりました。それも、“午前中のみ”ということで、息子の学校と交渉し、午前のクラスから午後のクラスへ移し、学校前にセラピーをすることになりました。

さて、やっとのことで、実費によるABAを始めましたが、始めてからの息子の成長は本当に目覚しいものでした。まず、現在の息子の状況を見極めるため、スーパーヴァイザーが3日間ほど家に足を運び、私からの状況説明に加え、息子にいろいろとテストしました(トータルで10時間以上かかりました)。そして、その結果を元にプログラムを作成します。さらにそれが学校でのIEPと結びついています。学校が提案するIEPゴールと、エージェンシーが提案するゴールの両方を考慮し、あるゴールについては学校の担任が、あるゴールについてはエージェンシーが、または学校とエージェンシーの両方が、その達成に向けてのプログラムを組むことになります。

エージェンシーからのセラピーは、最初は実費でしたので、週10時間から始めました。スーパーヴァイザーとセラピスト2人の計3人が息子のチームとなりました。そのうち、セラピストの2人は、家の息子が初めてのケースという新米セラピストでしたが、二人とも現在も同じエージェンシーのセラピストとして活躍しており、そのうちの1人は2年経った今でも息子のセラピーを担当しています。

最初の2週間くらいは、“顔慣らし”ということで、課題は一切せずに息子と遊んで過ごしました。このおかげで、息子にとってセラピストは“褒めてくれる人”“楽しい人”という印象がついたのだと思います。

本格的に課題を始めてからは、やはり癇癪が出てきました。癇癪は長いときは1時間以上続きます。泣き叫び、洋服を脱ぐというのが、もっとも多いパターンですが、セラピストは叩かれてもけられても、どんなに泣き叫んでも無視。洋服を脱ごうとしたら、無言で止めさせます。何度も何度も止めさせます。本当に忍耐勝負。”このわがまま、この人だったら許してくれるかな?“と息子は試すのだと思います。この”ためし“は今でも健在で、新しいセラピストが来ると、まずその”洗礼“を皆が受けることになります。 課題拒否、叫び、指示に従わないという問題行動を、その問題が起こるたびに記録し、1ヶ月の平均(平均1時間に何回、どの程度のものか)を出します。最初は1時間に3,4度のペースでしたが、3ヶ月を過ぎる頃には、1時間に0.33程度に落ち着きました。

息子の場合、最初は“名前を呼ばれたら3回以内に”はい“と返事をする”から始まり、それが達成されたら、“名前を呼ばれたら、呼んだ人の目をみて返事をする”、さらに、“名前を呼ばれたら、1回で、呼んだ人の目をみて返事をする”と進んでいきました。すべての課題は、10試行中8回以上できたら“達成”とみなされました。

息子は、ほめられることが非常にうれしかったらしく、ほめ上手のセラピスト達が大好きで、“課題します!”と、自ら進んで自分の部屋に行っていました。問題行動はずっとありましたが、それでもセラピーを始めて3ヶ月で、それまで20くらいだった語彙が一気に100以上に増え、また物事への理解力も非常に伸びました。また、椅子に座っていられる時間も飛躍的に長くなりました。

息子には、好きなキャラクターで作ったトークンボードがとても効果がありました。トークンと引換えに与えるごほうびは必要なく、単にトークンをすべて集めること、そして褒められることが最大の強化子でした。

特に、月に1回行われる、ディレクター、スーパーヴァイザー、セラピスト、親(時には学校の担任やOTも参加)の参加するクリニックミーティングでは、みんなの前で課題をして褒められる事がとても嬉しかったらしく、そのミーティングをいつも楽しみにしていました。このミーティングでは、1ヶ月の息子の進歩、プログラムの見直し、セラピスト同士の意見交換、そして親からの相談、提案等が話し合われます。

私は常にセラピーに参加していました。特にスーパーヴァイザーには困っていることを相談し、その原因、対処方法を一緒に考えてもらい、そして実際に私が息子にその方法を試してそれをチェック、指導してもらいました。

最初は、強化の仕方や、動作模倣の仕方など、基本中の基本を学びました。セラピストによるセラピーの間は、息子は従うことが当たり前という意識が徐々についていきましたが、やはり私相手となると、それも難しかったため、私の指示に従うようにさせることを重視し、キッチンのテーブルに座らせて、“頭をさわって”“鼻を触って”など模倣をさせ、強化することにより、基本的な“指示に従う姿勢”を訓練しました。

セラピストは、“私たちはずっと彼のセラピストでい続けることはできない。だから、あなた方親御さんたちに、立派なセラピストとなってもらうのが一番のゴール”と常に言っていました。そして3時間のセッション中、最初の20分は、私が彼らのしていることを息子に試すことを積極的にさせてくれました。そしてその都度やり方を教授し、誤りは正してくれました。

エージェンシーによるセラピーを開始したときから1年間、うちのスーパーヴァイザーだったセラピストは、常にうちの息子が“普通の5歳児”ということを、親である私に意識させてくれました。ある意味、私は“障害”というものを意識しすぎていたかもしれません。“障害があるから〜する”と、問題行動についても、障害ということを前提に考えていました。そんな時、“ぼくが小さい頃だって〜したよ”、“健常の子どもだって〜することはあるよ”と話をしてくれました。彼の話、そしてそういう考え方、接し方は、私の息子への対応の仕方という面で、大きな影響力となりました。息子にも、時々見せる人一倍の笑顔、誇らしげな顔、いたずらっ子な顔など、障害という言葉を意識させない、普通の男の子という面があることに、改めて気付かされました。

また、常に机に向かっての課題というわけではなく、時には公園やビーチに行ったり、買い物に行ったり、公共の場での問題行動に対する対処法も一緒に考えてくれました。特に、息子は感覚障害があり、病院に行って、診察のためにシャツを脱ぐこと、体に触れられることに、異常な恐怖感がありました。そこで、病院の予約の2週間前位から、家でおもちゃのお医者さんセットを用いてセラピストと一緒にお医者さんごっこをして、苦手なものを一つずつ克服させていきました。病院に着いてから、どのようなことが行われるかという順序を一つ一つ試し、人にされることに抵抗がある息子には、“自分でやってごらん”または“私にやってごらん”と息子にまずは試させるようにし、今度はセラピストと交代してみることを練習しました。

また、地域で主催しているクッキングクラスにも、セラピストが付いて参加したこともあります。私は教室には入らず、陰から息子の様子を窺っていました。クッキングは息子が一番好きな事なので、毎回とても楽しんで参加していましたが、インストラクターの先生の指示のみでは、上手く理解出来ないことも多かったため、セラピストがその部分を補ってくれていました。

1回1時間半のクラスでしたが、息子にとってはずっとその場にいてクラスに参加することが非常に困難でした。そこでトークンシステムを使いました。このときには、まずご褒美を本人に選ばせ(ほとんどの場合、キャンディでした)、紙に四角を20マス位書きます。最初の5つ目までは、3分おきにきちんと参加できていたら褒め言葉で強化し、チェックマークをつけ、次は5分おき、10分おきと間隔を徐々に開けていき、最後までチェックマークが埋まったら、ご褒美がもらえるというシステムを使用しました。

調理中、順番を待つこと、そして毎回オーブンを使用する料理だったため、オーブンに入れてから出来上がるまで待たなければならない、ということを知らなかった息子は、最初のうち待つことが出来ずに癇癪を起こし、周りをびっくりさせたこともありました。しかしそのうちに、料理が出来たら食べられるということがわかり、次第に待てるようになっていきました。他の子供たちは、作った料理の一部をクラス終了後に親に渡して誇らしげにしていましたが、うちの息子はすべて自分で平らげ、いつも手ぶらで満足そうに教室を出てきました。

5歳2ヶ月から本格的なABAを始め、現在7歳1ヶ月になる息子は本当に成長しました。最初は人に話しかけられても反応が全くなく、数回プロンプトしないと挨拶も出来なかった息子ですが、今は知っている大人には自発的に挨拶するようになり、簡単な質問には答えられるようになりました。また、課題に取り組む姿勢も、セラピーを始めた頃は、椅子に座れる時間が1分未満だったのに対し、現在ではひとりでワークブックの3ページ位をずっと座って出来るようになりました。従って、休憩の時間までの間隔がかなり長くなりました。そして、物事に対する認知力も非常に伸びました。最近は、トークンのご褒美として、セラピーの最後に近所のセブンイレブンへ行き、1ドルで買えるお菓子を買うことを楽しみにしています。それを通して、お金の価値、買い物の仕方も学んでいます。

息子は、物事の飲み込みがとても良く、新しい知識を視覚的に入れた場合には、すぐに覚えてしまいます。ですから、彼の中には非常に多くの知識が蓄積されているはずです。しかし、それらを実際に使うことが難しく、学校での評価にもあまり反映されていない状態です。そして、まだまだ社会性に欠け、クラスメートに話しかけられても無視したり、一方的な会話で相手を困惑させることも多々あり、課題が山積みです。ABAを本格的に始めた頃の飛躍的な伸びを考えると、 “これも出来るだろう、あれも出来るだろう”とついつい欲張って反省することもありますが、これからも息子なりの成長を受け止め、共に喜び、一歩一歩息子とともに前進していけるように努力したいと思っています。

2007年8月

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