えっくんが良くなる日まで

第2回 言語とコミュニケーション(PECS)

 

-PECSの訓練開始まで-

 今から4ヶ月前までのえっくんは、ほしい物があると私の腕を引っ張って、「ウーウー」といいながら、そのほしい物のある場所まで私を連れて行きました。 

そのとき私がえっくんのほしい物を見つけることができれば良いのですが そうでなかった時は、パニックを起こして自分の頭をたたくのです。

愛する我が息子が、自分自身を痛めつけようとしている姿は、とても悲しい何ともいえないもので、親として見ていられない光景です。

どうにかして他の方法でコミュニケーションがとれたら・・・と、セラピストさんと相談し、PECSをすすめられたのです。

PECSを使うことによって、生涯それなしではコミュニケーションが計れなくなったりするのではないかという不安もありましたが、当時のえっくんは言葉もまったくなく、発声といえば相変わらず宇宙語だらけでしたので、どのような手段であっても試してみようと思い、PECSの導入を決めました。 

 PECSの教材は、我が家のセラピストさんに頼んで作ってもらいました。 できあがったPECSを初めて見たとき、正直息子が理解するにはむずかしすぎるのではないかと思っていました。

しかし友人のお子さんは、PECSを使いはじめてからみるみるうちに三語文までの文章を使った意思表示ができるようになったのです。それを目の当たりにして、うちのえっくんもお話ができるようになってほしいという気持ちが大きくなっていきました。

 ここで紹介させていただく「PECSを使ってのコミュニケーションの方法」は私が本を読んだり、講習会にでて学んだ正式なものではありませんが、実際に我が家で実践したことの一部を簡単にご紹介し、みなさんの療育のご参考になればと思っています。

-自家製PECSの作り方-

100円均一などでバインダーを一冊用意します。

写真などを 3センチ四方程度の大きさに切ります。この写真などというのは、写真はもちろん、絵、広告の切り抜きなど、なんでもかまいません。大きさに関しても、これより大きなサイズもありますが、うちでは微細運動の訓練を兼ねて小さめの3センチ四方という大きさにしました。

切り抜いた写真などの裏に補強用として同じ大きさの厚手の画用紙をはり、パウチにかけます。

パウチのフィルム部分を1mmぐらいのこして周りを切ります。

その裏にマジックテープを貼り付けます。

右の写真はバインダーの表紙です。
縦線の部分には絵や写真をはります。下の横線はセンテンスストラップといって文章を作るための場所となります。

右の写真はバインダーを開いた形です。  
PECSの使い方を理解してくると、使用する写真や絵が増えてくるので、使用頻度の高いもの以外の絵の保管はここにします。
1ページ目は食物、2ページ目はおもちゃという風にカテゴリー別にしておくとわかりやすいと思います。

-訓練その1「欲しいものを選択する」-

子供の好きな食べ物、おもちゃなど要求のしやすい物の写真や絵を用意します。

うちで使っているPECSの絵はボードメーカー社のものですが、メーカなどにこだわらなくとも、子供がわかりやすい写真や絵で良いと思いますし、初期の段階ではお母さんが書いた絵や写真が良い場合もあるかと思います。

次の写真のように2枚の絵(この場合、バナナとジュース)を貼ります。

事前に絵と同じ実物(この場合、バナナとジュース)を用意して子供が自分で取れない場所にかくしておきます。

そして
「どちらがほしい?」
と質問してほしい方を選ばせます。選ぶことができなければプロンプトして選ばせます。

プロンプトの手段として、始めのうちは二人で行うのが理想です。
一人は子供の前で課題を出し、もう一人は子供の後ろで選択のプロンプトをするのです。

自力で選択した場合も、プロンプトして選択した場合も、選択できたら写真や絵と同じものを渡してあげます。
写真の場合、バナナの絵を選択できれば実物のバナナを渡してあげるわけです

この時かならず褒めて、選択できたことを強化してあげます。

この動作を何度も繰り返し訓練していきます。

上記のような2枚での訓練をマスターしたら貼る枚数を増やしていきます。 

うちでは選んだあと、かならずその物の名前を言葉で言わせるようにしています。

-訓練その2「文章を作る」-

訓練がすすんでくると、子供はPECSで選べば好きな物がもらえるんだということが理解できるようになってきます。

5枚ぐらいは確実に要求できるようになったら、次の段階として文章をつくる訓練をはじめます。

長方形にきった厚紙にパウチをかけたもの、またはプラスチック製の硬いもの(写真の場合赤い部分)を用意し、中心にマジックテープを貼っておきます。これをセンテンストラップの上に配置します。

この赤い部分に 「ちょうだい」の絵柄を貼っておきます。
(写真の場合、赤い部分の左側に貼ってある絵)

そして欲しい物の絵を選ばせて、すでに貼ってある「ちょうだい」の絵の前にその絵を貼らせます。これで「〜ちょうだい」の2語文の完成です。

このセンテンスストラップをはがして、相手に渡して要求をさせます。(写真の場合、赤い部分の右側に貼ってあるジュースの絵)

このときも、相手に渡すとき「〜ちょうだい」と言葉で言わせてから、絵と同じ実物を渡してあげます。

そしてここでも、意思表示できたことを褒めて強化してあげます。

-訓練その3「ペックスブックを遠ざけていく」-

PECSで「〜ちょうだい」の要求ができるようになったら、徐々に本人とペックスブックの距離を遠ざけていきます。

たとえば、いつも子供の目の前にあったペックスブックをちょっと離れたところにおきます。

そしてペックスブックがあるところまで行って自分で文を作り、センテンスストラップをもって来れたら褒めてほしい物を渡してあげるわけです。

-訓練その4「待っての訓練」-

さらに訓練がすすんでくれば「待つ」という訓練も入れていきます。

ほしいものを選んでPECSで意思表示したとしても、その場にその要求した物が目の前にない場合などのために、「待つ」という訓練をしていくのです。

子供がPECSで選んだ絵を持ってきたとき、「待って」という大きめの手の絵のカードの上にのせます。これが「待って」の合図です。

そして何秒か待たせます。待つことが苦手な子供の場合は、何か簡単な課題を一つ させてから欲しいものを渡すというところからはじめると良いかもしれません。

このときも待てたことを褒め、強化します。

-PECSの訓練をはじめてからのえっくん-

えっくんはPECSを使った訓練を開始してから、当初想像していた以上の短期間で、かなりコミュニケーションを計ることができるようになりました。

PECSを使うことによって本人の要求が通りやすくなってくると同時に、パニックの回数、私の手を引いての要求などがかなり減ってきました。

手を引いてくる場合も、同時に「ヘルプ」と言葉で言えるようになっています。 言葉の数も少しずつ増えてきています。

最近では
「オープン ドア」(ドアあけて)
「アイ ウォン ジュース」(ジュースちょうだい)
などの2〜3語文が自発で出るようになってきました。

言語が増え始めると同時に、こちらからの指示もかなり入るようになりました。

今まではこちらからの指示への理解が少なかっただけでなく、指示されるだけでパニックになっていました。

しかし、現在では30以上の指示がわかるようになり、ちゃんと言われたことを笑顔でできるようになってきました。

最近では飛んでいる鳥を指さして
「バード」
と言ったり、
「何がほしいの?」と聞かれると、それを指差して
「これ」と応えられます。

またクレーンで要求をしてきた息子を無視すると、2階の自分の部屋までいって PECSブックをもってきて
「〜ちょうだい」
と意思表示することができるようになりました

4ヶ月前、言葉もまったく無く、奇声ばかりを発していた息子でしたが そのころから比べるとかなりの進歩だと思います。

ここに紹介させていただいた事は現在の息子のレベルに合わせ行っている我が家の訓練の様子です。

より高度な方法や、これとは別のテクニックなどもたくさんあると思います。 いずれにしても、PECSはコミュニケーションをはかる手段としてとてもすばらしい道具の1つだと思います。