2001年9月から10月にかけて、つみきの会の会員を対象に、行動療法の実施状況とその効果に関する初めてのアンケート調査を行ないました。
調査の対象は、会員のうち、自閉症の子どもを持っていて、3ヵ月以上行動療法を 行なってきた方に限定しました。
調査対象に該当すると思われる会員79名のうち、32名から有効回答が寄せられました。
有効回収率は40.5%です。回答がなかった会員のなかには、入会したものの何らかの理由で行動療法を行なっていない、
あるいはやめてしまった、という人が含まれているものと思われます。
調査項目は、
A.行動療法の実施状況に関して
行動療法を始めたときの子どもの年令
行動療法を行なってきた期間
行動療法に費やしている一日あたり、週あたりの時間数
の3項目
B.行動療法の効果に関して
動作模倣
音声指示
発語
他の子どもとの遊び
こだわりとかんしゃく
の5項目です。
それ以外に、行動療法の効果に関して文章で自由に回答していただきましたが、ここではその内容は省略しています。
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A.行動療法の実施状況
1.行動療法を始めた年令
平均年令 約3才10ヵ月
内訳
1才台 0人
2才台 9人
3才台 10人
4才台 7人
5才台 4人
6才台 1人
7才台 1人
ご覧のとおり、2〜4才で始めた人が最も多いですが、6、7才で始めたという人もいます。
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2.行動療法を行なっている期間(始めてから何ヵ月経ったか)
平均期間 10.7ヵ月
内訳
3ヵ月以上6ヵ月以下 12人
6ヵ月超 12ヵ月以下 7人
1年超 1年半以下 11人
1年半超 2年以下 1人
2年超 1人
つみきの会が、まだ発足して1年余りしか経っていないので、行動療法を行なっている期間は、平均10.7ヵ月と短くなっています。最初に述べたように、今回のアンケートの対象には、始めてから3ヵ月未満の会員は入っていません。3ヵ月未満ではまだ十分効果が現われていないだろう、と考えたからです。
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3.行動療法を行なっている時間(一日あたり、週あたり)
一日あたり平均 2.0 時間
内訳
1時間以下 10人
1時間超 2時間以下 9人
2時間超 3時間以下 9人
3時間超 4人
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一週あたり平均 13.8時間
内訳
10時間以下 14人
10時間超 20時間以下 13人
20時間超 30時間以下 4人
30時間超 1人
だいたい一日に何時間、週に何時間、行動療法を行なっているか、を尋ねました。 ロバース博士が勧めているのは週40時間、ニューヨーク州保健省の治療ガイドライン
が勧めているのは、少なくとも週20時間以上ですが、会員のなかでそこまでできている人は少なくて、週20時間以下、という人が大半を占めました。
なお、行動療法を始めてからアンケート回答時までに、一日あたりの時間数が多い時 期と少ない時期があった場合には、一番長い期間における時間数を採りました(例えば始めの一ヵ月は一日1時間、あとの6ヵ月は一日2時間なら、一日2時間の方を採りました)。
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B.行動療法の効果(治療前と治療後の比較)
行動療法を始めてからアンケート回答時までに、お子さんにどんな進歩が見られたかを、いくつかの項目に関して、「治療開始前はどうでしたか」「現在はどうですか」と尋ねる、という形で調査しました。回答は記号で答えてもらいました。
1.動作模倣(遅延模倣(どこかで見た動作をしばらく経ってからまねする)を除 く)
<治療前>
イ.ほとんどあるいは全くできなかった 20人(62.5%)
ロ.ある程度できた 7人(21.9%)
ハ.上手にできた 5人(15.6%)
(具体的な基準は、イの「ほとんど」が「まれに気が向いたらするが、させようとしてもない、という程度」。ロの「ある程度できた」が「確実に模倣できる動作が1〜10程度」)
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<現在>
イ.ほとんどあるいは全くできない 1人(3.1 %)
ロ.ある程度できる 1人(3.1 %)
ハ.上手にできる 30人(93.8%)
(具体的な基準:ロの「ある程度できる」とは、「ランダムで確実に模倣できる動作が2〜12」。「上手にできる」とは「ランダムで確実に模倣できる動作が12を越える」)
動作模倣は、自閉症児に対する行動療法で一番最初に教える課題の一つです。治療前は「ほとんどあるいは全くできなかった」と答えた人が6割を占め、「上手にできた」(確実に模倣できる動作が11以上)と答えた人は15.6%に過ぎません。しかし治療後は94%の人が、上手にできるようになった、と答えています。
なお、「ほとんどできなかった」「ある程度できる」「上手にできる」のそれぞれ の具体的な基準は、回答が主観に流れるのを避けるのために、仮に定めたものです。
治療前と治療後とでは、治療後の方が厳密になっていますが、これは治療前は記憶が あいまいだし、この段階では行動療法をやっていないので、子どもの能力を正確に判断できなかっただろう、と思われるからです。これは以下の質問項目でも同じです。
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2.大人の指示の理解
<治療前>
イ.ほとんどあるいは全く指示が通らなかった 17人(53.1%)
ロ.ある程度指示が通った 11人(34.4%)
ハ.指示はよく通った 4人(12.5%)
(具体的な基準:イの「ほとんど」とは、いくつか通るように見える指示もあるが、状況から判断しているかもしれない、という程度。ロは「確実に理解していると思われる指示が1〜10程度」。ハは「確実に理解していると思われる指示が10を越えていた」)
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<現在>
イ.いまもほとんどあるいは全く指示が通らない 1人( 3.1%)
ロ.ある程度指示が通る 9人(28.1%)
ハ.指示はよく通る 22人(68.8%)
(具体的な基準:イは「状況にあった指示なら従えるが、子どもが予想できない指示を出したときにそれに従うことができない」、ロは「状況とは無関係に、ランダムに二つの指示(例えば拍手とバンザイ)を提示したとき、連続6回中5回以上正解できるものが2〜12ある」、ハは「状況とは無関係に、ランダムに提示されても確実に反応できる指示のレパートリーが12を超える」)
次の質問は、大人の指示をどれほど理解しているか、です。行動療法では「音声指示」と言って、やはり初期の課題の一つです。結果は、治療前には「ほとんどあるいは全く指示が通らなかった」と答えた人が約半数を占めていたのに対して、現在は指示がよく通るようになった、と答えた人が約7割に達しています。
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3.意味のある発語(自発的には使わないが聞いたら答えられる、というものを含む)
<治療前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった 16人(50.0%)
ロ.単語のみ 8人(25.0%)
ハ.2、3語文 6人(18.8%)
ニ.4語文以上 2人( 6.3%)
(具体的な基準:イは「オウム返しや遅延模倣ではなく、意味をもって適切に使っていると思われる単語が0〜3程度」、ハはごく稀に2、3語文で話す、というものも含む。ニも同じ)
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<現在>
イ.ほとんどあるいは全くない 2人( 6.3%)
ロ.単語のみ 6人(18.8%)
ハ.2、3語文 16人(50.0%)
ニ.4語文以上 8人(25.0%)
(具体的な基準:イは「意味を持って確実に支える単語が0〜3」、ロは「意味をもって確実に使える単語が4以上」、ハ、ニはごく稀も含む)
言葉がない、あるいは乏しい、というのは多くの自閉症児の親が抱える共通の悩みです。このアンケートでも、治療前は、意味のある発語がほとんどあるいは全くなかった、と答えた人がちょうど5割を占めています。しかし現在ではそれが6%に減っています。残り44%のお子さんは治療開始後に、言葉を獲得したのです。また2、3語文以上の文章を話すことのできるお子さんは、治療開始前は25%に過ぎませんでしたが、治療後は75%に達しています。
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4.兄弟や友達との遊び
<治療前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった 23人(71.9%)
ロ.単純な遊びならできた 7人(21.9%)
ハ.役割の交替またはルールの理解を伴う遊びができた 2人(6.3 %)
(具体的基準:イは同じ場所で遊んでいるが、他の子には無関心。あるいはたまに他の子の指示に反応しているが、好きで一緒に遊んでいるという様子ではない、という程度を含む」、ロは「くすぐられて逃げる、のような単純な遊び(役割の交替はなくてもよい)でいいから、それを喜んでいるように見える」、ハの「役割の交替」とは、くすぐられるだけでなく、自分もくすぐれる、追いかけられるだけでなく、自分も追いかけることができる、ということ」)
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<現在>
イ.ほとんどあるいは全くない 11人(34.4%)
ロ.単純な遊びならできる 16人(50.0%)
ハ.役割の交替またはルールの理解を伴う遊びができる 5人(15.6%)
(具体的な基準:治療前と同じ)
他の子どもに関心を持たない、他の子と遊べない、といった社会性の障害は自閉症の特徴の一つです。このアンケートでも、治療前は7割の人が、兄弟や友達とほとんどあるいは全く遊べなかった、と答えています。それに対して、現在では66%のお子さんが兄弟や友達と何らかの形で遊ぶことができる、と答えています。
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5.こだわりやかんしゃく
<治療前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった 3人( 9.4%)
ロ.ある程度のこだわりまたはかんしゃくがあった 25人(78.1%)
ハ.かなりひどいこだわりまたはかんしゃくがあった 4人(12.5%)
(具体的な基準:なし)
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<現在>
イ.こだわり、かんしゃくの両方がほとんどあるいは全く 7人(21.9%)
なくなった
ロ.確実にこだわりやかんしゃくが減ったが、まだある程度 21人(65.6%)
残っている
ハ.ほとんど変わっていない 4人(12.5%)
(具体的な基準:なし)
最後に問題行動の抑制の例として、こだわりとかんしゃくについて尋ねました。ここでは具体的な基準を示すのがむずかしいので、やむをえず基準を設けませんでした。また他の項目と違って、治療前と現在の回答の項目がそろっていません。<現在>の回答項目は、現在の状態を尋ねるのではなく、こだわりやかんしゃくが治療前と比べて減ったかどうかを尋ねています。これは治療前と後の回答項目をそろえると、前後の変化を十分に把握できない、と判断したからです。
そのため、単純に数値を比較することはできませんが、<現在>のイとロを合わせた28人から、もともとこだわりやかんしゃくがほとんどなかった3人を除くと、25人
(78.1%)の人が、こだわりやかんしゃくが確実に減った、と答えたことになります。そしてそのうち4人の人が、治療後にこだわりとかんしゃくの両方がほとんどあるいは全くなくなった、と答えています。逆に、治療前とほとんど変わっていないと答えた人も4人(12.5%)います。
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