第2回つみきの会会員アンケート調査

 2003年8月に、つみきの会の会員を対象に、行動療法の実施状況とその効果に関する第2回目のアンケート調査を行ないました。調査の対象は、会員のうち、自閉症の子どもを持っていて、3ヵ月以上行動療法を行なってきた方に限定しましたところ、95名から有効回答が寄せられました。

 前回から変更があったものは次の2項目です。
 
(1)B−5「こだわりやかんしゃく」
(前):第1回アンケートと同じ
(後):第1回アンケートでは、「こだわりやかんしゃくが実施前と比べて減ったかどうか」を尋ねていましたが、今回は他の設問と同様開始前と同じ設問にしてあります。

(2)B−6「要求言語」
今回、新たに追加しました。

 また、今回は実施前後にどのように変化したのかより細かく見るために、クロス集計を行いました。(→クロス集計結果

 今回の調査項目は以下のとおりです。

A.行動療法の実施状況に関して
行動療法を始めたときの子どもの年令
行動療法を行なってきた期間
行動療法に費やしている一日あたり、週あたりの時間数
の3項目

B.行動療法の効果に関して
動作模倣
音声指示
発語
他の子どもとの遊び
こだわりとかんしゃく(前回から設問に変更あり)
要求言語(今回新規設定項目)
の6項目です。

 それ以外に、行動療法の効果に関して文章で自由に回答していただきましたが、ここではその内容は省略しています。

A.行動療法の実施状況

1.行動療法を始めた年令

1才台 0 人
2才台 30 人
3才台 34 人
4才台 16 人
5才台 9 人
6才台 3 人
7才台 1 人
8才台 1 人
9才台 1 人
合 計 95 人

 2〜4才で始めた人が最も多いですが、7才〜9才で始めたという人も1人ずついます。

2.行動療法を行なっている期間(始めてから何ヵ月経ったか)

平均期間 14.8ヵ月
3ヵ月以上6ヵ月以下 24 人
6ヵ月超 12ヵ月以下 23 人
1年超  1年半以下 17 人
1年半超 2年以下 18 人
2年超            13 人
合 計 95 人

 つみきの会が、発足して3年余りが経過し、行動療法を行なっている期間は、平均14.8ヵ月と前回調査時点(平均10.7ヵ月)と比較して4ヶ月あまり長くなっています。新規に加入される方が増えているため、全体としての伸びは小さいものとなっています。
 なお、最初に述べたように、今回もアンケートの対象には、始めてから3ヵ月未満の会員は入っていません。3ヵ月未満ではまだ十分効果が現われていないだろう、と考えたからです。

3.行動療法を行なっている時間(一日あたり、週あたり)

一日あたり平均 2.2 時間
1時間以下 21 人
1時間超 2時間以下 42 人
2時間超 3時間以下 18 人
3時間超 4時間以下 6 人
4時間超 5時間以下 3 人
5時間超 6時間以下 4 人
6時間超          1 人
合 計 95 人

一週あたり平均 14.4時間
10時間以下 40 人
10時間超 20時間以下 42 人
20時間超 30時間以下 7 人
30時間超 40時間以下 5 人
40時間超 1 人
合 計 95 人

 だいたい一日に何時間、週に何時間、行動療法を行なっているか、を尋ねました。 ロバース博士が勧めているのは週40時間、ニューヨーク州保健省の治療ガイドラインが勧めているのは、少なくとも週20時間以上ですが、会員のなかでそこまでできている人は少なくて、週20時間以下、という人が大半を占めました。 なお、行動療法を始めてからアンケート回答時までに、一日あたりの時間数が多い時期と少ない時期があった場合には、一番長い期間における時間数を採りました(例えば始めの一ヵ月は一日1時間、あとの6ヵ月は一日2時間なら、一日2時間の方を採りました)。

B.行動療法の効果(実施前と実施後〔現在〕の比較)

1.動作模倣(遅延模倣(どこかで見た動作をしばらく経ってからまねする)を除く)

<実施前>
イ.ほとんどあるいは全くできなかった
ロ.ある程度できた
ハ.上手にできた

(具体的な基準は、イの「ほとんど」が「まれに気が向いたらするが、させようとしてもしない、という程度」。ロの「ある程度できた」が「確実に模倣できる動作が1〜10程度」)

<実施後>
イ.ほとんどあるいは全くできない
ロ.ある程度できる
ハ.上手にできる

(具体的な基準:ロの「ある程度できる」とは、「ランダムで確実に模倣できる動作が2〜12」。「上手にできる」とは「ランダムで確実に模倣できる動作が12を越える」)

 動作模倣は、自閉症児に対する行動療法で一番最初に教える課題の一つです。実施前は「ほとんどあるいは全くできなかった」と答えた人が64人(68%)を占め、「上手にできた」(確実に模倣できる動作が11以上)と答えた人は5人(5%)に過ぎません。しかし実施後は78人(82%)の人が、上手にできるようになった、と答えています。

 なお、「ほとんどできなかった」「ある程度できる」「上手にできる」のそれぞれの具体的な基準は、回答が主観に流れるのを避けるのために、仮に定めたものです。

実施前と実施後とでは、実施後の方が厳密になっていますが、これは実施前は記憶があいまいだし、この段階では行動療法をやっていないので、子どもの能力を正確に判断できなかっただろう、と思われるからです。これは以下の質問項目でも同じです。

2.大人の指示の理解

<実施前>
イ.ほとんどあるいは全く指示が通らなかった
ロ.ある程度指示が通った
ハ.指示はよく通った

(具体的な基準:イの「ほとんど」とは、いくつか通るように見える指示もあるが、状況から判断しているかもしれない、という程度。ロは「確実に理解していると思われる指示が1〜10程度」。ハは「確実に理解していると思われる指示が10を越えていた」)

<実施後>
イ.いまもほとんどあるいは全く指示が通らない
ロ.ある程度指示が通る
ハ.指示はよく通る

(具体的な基準:イは「状況にあった指示なら従えるが、子どもが予想できない指示を出したときにそれに従うことができない」、ロは「状況とは無関係に、ランダムに二つの指示(例えば拍手とバンザイ)を提示したとき、連続6回中5回以上正解できるものが2〜12ある」、ハは「状況とは無関係に、ランダムに提示されても確実に反応できる指示のレパートリーが12を超える」)

 次の質問は、大人の指示をどれほど理解しているか、です。行動療法では「音声指示」と言って、やはり初期の課題の一つです。結果は、実施前には「ほとんどあるいは全く指示が通らなかった」と答えた人が61人(64%)を占めていたのに対して、現在は指示がよく通るようになった、と答えた人が63人(66%)に達しています。

3.意味のある発語(自発的には使わないが聞いたら答えられる、というものを含む)

<実施前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった
ロ.単語のみ
ハ.2、3語文
ニ.4語文以上

(具体的な基準:イは「オウム返しや遅延模倣ではなく、意味をもって適切に使っていると思われる単語が0〜3程度」、ハはごく稀に2、3語文で話す、というものも含む。ニも同じ)

<実施後>
イ.ほとんどあるいは全くない
ロ.単語のみ
ハ.2、3語文
ニ.4語文以上

(具体的な基準:イは「意味を持って確実に支える単語が0〜3」、ロは「意味をもって確実に使える単語が4以上」、ハ、ニはごく稀も含む)

 言葉がない、あるいは乏しい、というのは多くの自閉症児の親が抱える共通の悩みです。このアンケートでも、実施前は、意味のある発語がほとんどあるいは全くなかった、と答えた人が59人(62%)を占めています。しかし現在ではそれが17人(18%)に減っています。残り42人(44%)のお子さんは実施後に、言葉を獲得したのです。また2、3語文以上の文章を話すことのできるお子さんは、実施前は21人(22%)に過ぎませんでしたが、実施後は67人(70%)に達しています。

4.兄弟や友達との遊び

<実施前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった
ロ.単純な遊びならできた
ハ.役割の交替またはルールの理解を伴う遊びができた

(具体的基準:イは同じ場所で遊んでいるが、他の子には無関心。あるいはたまに他の子の指示に反応しているが、好きで一緒に遊んでいるという様子ではない、という程度を含む」、ロは「くすぐられて逃げる、のような単純な遊び(役割の交替はなくてもよい)でいいから、それを喜んでいるように見える」、ハの「役割の交替」とは、くすぐられるだけでなく、自分もくすぐれる、追いかけられるだけでなく、自分も追いかけることができる、ということ」)

<実施後>
イ.ほとんどあるいは全くない
ロ.単純な遊びならできる
ハ.役割の交替またはルールの理解を伴う遊びができる
(具体的な基準:実施前と同じ)

 他の子どもに関心を持たない、他の子と遊べない、といった社会性の障害は自閉症の特徴の一つです。このアンケートでも、実施前は77人(81%)の人が、兄弟や友達とほとんどあるいは全く遊べなかった、と答えています。それに対して、現在では72人(76%)のお子さんが兄弟や友達と何らかの形で遊ぶことができる、と答えています。

5.こだわりやかんしゃく

<実施前>
イ.ほとんどあるいは全くなかった
ロ.ある程度のこだわりまたはかんしゃくがあった
ハ.かなりひどいこだわりまたはかんしゃくがあった
(具体的な基準:なし)

<実施後>
イ.ほとんどあるいは全くない
ロ.ある程度のこだわりまたはかんしゃくがある
ハ.かなりひどいこだわりまたはかんしゃくがある
(具体的な基準:なし)

 問題行動の抑制の例として、こだわりとかんしゃくについて尋ねました。ここでは具体的な基準を示すのがむずかしいので、やむをえず基準を設けませんでした。
 そのため、単純に数値を比較することはできませんが、実施前は、かなりひどいこだわりまたはかんしゃくがある、と答えた人が34人(36%)でしたが、現在ではそれが7人(7%)に減っています。
 また、ほとんどあるいは全くないお子さんは、実施前は13人(14%)でしたが、実施後は30人(32%)に増加しています。
ただ、他の項目と異なり、実施前に比べてこだわりやかんしゃくが減ったのは42人(44%)、評価が変わるほどの変化はなかったのは48人(51%)、こだわりやかんしゃくが強くなったのが5人(5%)と、望ましくない方向へ変化したお子さんもいらっしゃいました(クロス集計を参照)。

6.要求言語

<実施前>
イ.ことばで要求することがまったくできなかった
ロ.単語で要求できる程度。二語文は自発できなかった
ハ.促されなくても自分から、二語文かそれ以上で要求を表現できた

(具体的な基準:イは、「アーアー」など、意味のない発声で要求する場合も含む。また、「ちょうだい」などの自発語はあっても、オウム返しや、状況に関係なく乱用している場合は、イとする。ロは、状況に応じて正確に使える単語が少なくとも一つあること。しかも手助けなしで自発すること。例えば「ちょうだい」、「とって」、「ごはん」、「ジュース」など。ハは、「ジュース、ちょうだい」「お菓子とって」「ママ、ごはん」など、目的語+動詞、または主語+動詞の形の二語文を、状況に応じて正確に、一つ以上自発すること)

<実施後>
イ.ことばで要求することがまったくできない
ロ.単語で要求できる程度。二語文は自発できない。
ハ.促されなくても自分から、二語文かそれ以上で要求を表現できる。

 言葉による要求がない、あるいは乏しい、というのも多くの自閉症児の親が抱える共通の悩みです。実施前は、ことばで要求することがまったくできない、と答えた人が62人(65%)を占めています。しかし現在ではそれが14人(15%)に減っています。
 また、二語文かそれ以上で要求を表現できるお子さんは、実施前は10人(11%)に過ぎませんでしたが、実施後は62人(65%)に達しています。


トップページに戻る