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【米ヴァージニア州のABAワークショップで学んだこと】
今月11月中旬に米ヴァージニア州にある自閉症児専門学校(私立)で親や教師を対象としたABAワークショップ
が4日間あり、それに参加してきました。
この学校は自閉症児をもつ親達により6年ほど前に設立され、現在生徒は17名(3歳から10歳くらい)、同数以
上の教師がいます。プログラムを組んでいるのは、行動分析の分野で修士号をとった後、長年ニュ−ヨ−クで自閉症
児の教育にあたった後、ヴァージニア州にうつってきた先生で、その方が今回のワークショップの講師です。
4日間のうち、2日間はABAの理論的な面を中心に、あとの2日間は実際の授業を見学した後の質疑応答、具体
的なデータの取り方や個別の対応方法など(おまけに新しい課題の前後にペーパーテストがあるので気がぬけませ
ん)、とても内容の濃いものでした。
特に、実際に自閉症の子供達と教師の1対1のABA授業風景を4日間に渡り、見ることができたのはとても勉強にな
りました。大変オープンといいますか、中にはパニックをおこして暴れる子もいたわけですが、それでも、最後まで
ABAをやり遂げます。私も同じ部屋にいて、最後まで見学させてもらいました。
こう書くと厳しい雰囲気を想像するかも知れませが、そこの子供達がみんな可愛いんですよ。
自分の子供たちとだぶるからかも知れませんけど、本当にみんな可愛いです。
子供達のプログラムの中には必ず、’TALK' といって、誰かに自分から話かけるものが含まれているのですが、一日
の内に何回かは、'How are you?' とか言って先生や私達に声をかけてくるんですが、思わずこちらも微笑んで返事
をしてしまいます。
ABAにもいくつかの流派というか流れがあるようで、その中でもロヴァース博士は最も知名度も高い主流派のよ
うです。したがってABAを語る上で、ロヴァース博士の提唱する理論や方法は必ずABAのベースになっています
が、その応用編や他の手法とミックスした方法もいろいろとあるようです。この学校で実践しているのも、そうした
プログラムのひとつで、ミー・ブックをよまれて、それをABAのベースにしている方、すでにABAをご家庭で実
践中の方からすると’少々、違うな’と思われるかもしれませんので、初めにお伝えしておきます。違いはあります
が、現在アメリカで教育の現場でおこなわれているABAのひとつということで、紹介する価値はあると考えたから
です。
それは Activity Schedule (アクティビティ・スケジュール/行動・活動計画)とよばれる手法です。
これはABAの理論というより、より具体的で実践的なABAベースのプログラムのことです。
キーワードは Errorless Method (エラーレス/間違いを犯させない手法)とIncidental Teaching(インシデンタ
ル・ティーチング/日常的な機会を利用してのABA)です。
私が自分用にとったノートからの抜粋で、参考になりそうなところをMLで紹介いたします。
(自分用にまとめたので、ですます言葉ではありませんがご了承ください)
★まずは、アクティビティ・スケジュール《Activity Schedules (行動・活動計画表)》について。
アクティヴィティ・スケジュ−ル(Activity Schedules) とは、プロンプトに頼ることなく子供たちが行動に移れ
る環境を整える手助けをするものである。
このActivity Schedules(行動計画表)をつかってのABAがこの学校に特徴的な方法である。基本的な考えは、一般に
作成する一日の行動計画表とかわらない。
この方法の最大の利点であり、目標とするところは、プロンプトに頼らず、子供が自ら次の行動をおこせるところに
ある。 ABA、特に 不連続試行訓練(discretetrial training)とよばれる過程で、獲得した行動は、獲得に要する
時間が短く、効率的である反面、行動の継続性が弱く、般化が困難、そしてプロンプトに対する依存性が高まり、そ
こからのフェーディングが極めて困難という欠点がある。
子供はしばしば、周りからのプロンプト待ちの受動的な状態に陥り、プロンプトがあれば、望まれた行動はとれるが、
ないと待ちの姿勢のまま、何もしないことが起きやすい。この欠点を克服し、プロンプトなしで子供が行動に移れる
ようなプログラムがActivity Schedules である。(誤解のないように、コメントしておくが、不連続試行訓練によ
る行動の獲得がABAの大事な手法であることに変わりはないし、Activity Schedules においても組み込まれている)。
★同時にもうひとつの インシデンタル・ティ−チング《Incidental Teaching=日常的な子供の行動に付随して強
化する方法》とあわせ、双方を子供の状態や課題によって使いわけている。
Incidental Teaching =日常的な子供の行動に付随して強化する方法で、不連続試行訓練が教師のプロンプトによ
って引き起こす行動を強化する方法に対し、こちらは、こどもが自主的にとった行動を強化していく方法。
時間と手間がかかり、不連続試行訓練ほど効率が良くない反面、獲得した行動の継続性が高いという利点がある。
また般化もしやすい。
★Errorless Method (エラーレス・メソッド)
通常の子供たちは、少ないきっかけ(ヒント)から、だんだん多くのヒントを(プロンプトと置き換えていい)与え
られることで、学ぶ。
例えば、洋服のカラー(襟)はどこ?という質問に対し、教師が、
1.あなたの近くにある、
2.あなたの体に接している、
3.着ているものの一部、
などと、プロンプトしていけば良い。これは Least-to-Most Prompts Sequence(最小から最大のプロンプトの流れ)
という。
自閉症児には、この全く反対の方法、Most-To-Least(最大から最小)が有効である。上の例で言えば、まずカラー(襟)
は‘ここにある、これだ’と正解を教えるところから始める。
この利点は、子供が失敗をしないことである(Errorless)。 自閉症児は予測できないこと、不測の事態、自分のや
ったことのないこと、できないことに極端に抵抗するので、正解から始めて、徐々にフェードしていく。
例えば、体の部位を触らせるABAの際も、教師が ‘鼻’と言ったとき(Touch your nose)、子供が耳に手をもってい
こうとしたら、即座に手をとって鼻にもっていかせる。間違いをさせない。‘鼻’といってから、子供の反応をじっ
と待ったり、耳を触った反応に対して、‘ちがう、だめ’(No.)等と言ったりしない。
間違えさせないので、’ちがう’という必要もない。
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強化子について講義を受けているときに、印象に残った言葉は、
‘あなた自身が子供とっての最も強い(魅力的な)強化子になれるのが一番。そうすれば、どれだけあとのABAがや
り易く、楽しくなることか‘ ということ。
★インシデンタル・ティ−チング(Incidental Teaching)とは。
インシデンタル・ティーチングとは、自然で日常的な社会的相互関係(social interaction)の中で、ものの名前を呼
んだり、言葉で表したりする言語技能を学ぶ方法のことである。(Hart & Risley, 1975 JABA, 8, U. of Kansas)
・何故この方法を採用するのか。
−自発的な言語を引き出す
−プロンプト依存からの脱却に役立つ上、不連続試訓練に比しての般化への優位性
・何故効果的か。
−子供自身が選んだ状況・設定を利用するので、子供にとって自然な環境内での訓練の頻度が高くなる。
−真の強化子が形成されるので、理想的な学習機会となる
・インシデンタル・ティ−チングを始める為の前提条件
−物事に関心をしめすことができる
−行動・反応を真似できる
−簡単な指示に従える
−破壊的な行動の程度が低い
・インシデンタル・ティ−チングの構成要素
1.開始反応 (Initiation)
2.詳細な言語・記述への要求 (Request for elaboration)
3.反応 もしくはプロンプトを伴った反応
4.強化子の確認
・子供からの開始反応をどうして捉えるか
子供が: 何かに手を伸ばした時 ドアを開けようとした時
何かを指差した時 何かに近づいていく時
あなたを何かに向けて引っ張っていく時 単語や文章を言った時
何かの入れ物(容器)を開けようとした時 質問をしてきた時
何かをいじりはじめた時
・開始反応をどうやってひきだすか
−興味をもたせたいものを身近においておく
−素材を興味のもちそうな物に工夫してみる
−ある行動をする為に必要なものを(わざと)隠してみる
−好きなことをさせて、それから一旦やめてみる
(例えば、ブランコを押してやってから、押すのをやめてみる)
−ある物をじっと見つめてから、子供を期待を向けた目でみる
−ある物を子供に近づけてみる
−子供の目の前で、他の子供たちと関わってみる
−繰り返し遊ぶができる状況をつくりだす
(ブロック、パズル、双方向的・対話的なゲーム(interactive games))
・インシデンタル・ティ−チングで何を教える事ができるか
*学習可能な言語概念の例は以下の通り。
−色 −数(数え方)
−形 −大きさ
−機能 −Yes/No (はい、いいえ)日常的には、(うん、いや)
−同意語 −前置詞
−代名詞 −カテゴリー(ジャンル)
*学習可能な自発的な言語の例は以下の通り。
−(正解に近い、あるいは近づいていく段階の)言葉
−物の名前を呼ぶ
−質問をする
−手助けを求める
−完全な一文
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ではアクティヴィティ・スケジュ−ルというのは、実際どうやっているのか?と疑問をもたれた方も多いと思いま
すので、具体例にいきます。
▼アクティヴィティ・スケジュ−ルを実際の現場でみて、特徴的な点をあげる。
1.教師は基本的に常に生徒の後ろに位置する。
課題によっては対面式や横並びになることもあるが、基本は後ろから(まるで二人羽織のように付き添って)、
手をとって、課題をすすめる。
例)
@‘マイケル、さあ始めよう’と声をかける
A 椅子に座る
B スケジュール表を開く(机にスケジュール表は置いておく)
C スケジュール表に貼ってある課題(例えばパズル)の絵・写真を指差す(課題は1ページに一つだけ)
D 棚に課題をとりに行く(行動表のページに貼ってある番号、アルファベットや写真と全く同じものを、課題
で使うものがはいっているケースにはってある。これにより同じ絵・写真を頼りに子供が自分でケースを見
つける
E パズルの入ったケースをもって席に戻る
F ケースからパズルを出す
G 組み立てる
H ばらす
I ケースへ戻す
J 棚へケースを運んでもどす
K 席へ戻る
L スケジュール表に課題が終わった印のマーク(マジックテープで貼り付けやすくしてある)をはる
M 次のページを開く
N 次の課題を指差す
と続いていくとすると、この間、この方法をはじめたばかりの子供は当然、ほとんど何もできないし、理解できてい
ないので、全て、先生が手取り足取り、子供の後ろ側から手をそえて課題をこなしていく。
2.言葉による指示、説明は加えない
この間、言葉による指示や説明は一切しない。(座って、立って、パズルを探して、取りにいって、席に戻って、
パズルを始めて等、一切言わないし、指差しで指示もださない) 課題の始まり、終わり、うまく出来た時のほめ言
葉(強化)などの節目以外は、一切無言で進める。
つい ‘このパズルはここにはめようね’ ‘この丸いのはここだね’とか言いたくなると思ってしまうが、そう
したことも一切言わない。
言葉がただでさえ遅れていたり、これから言葉を覚えようという子供に言葉かけのない方法で問題ないのか、ときい
たところ、言葉を学習する課題をスケジュールの中にくみこんでいけばいいし、アクティヴィティ・スケジュ−ルを
こなしていく段階で学んでいくので心配ないといわれた。
(確かにプロンプトなしで、間違いなしですすめようと思ったら、こうするしかないなと思った次第)
逆に言えば、少しだけ使用する言葉は重要といえる。
アクティヴィティ・スケジュ−ルを始める時は、必ず
‘さあ始めよう’(Start your day)
‘何から始めようか‘ (Find something to do)
‘始め’ (Let's work)
‘予定表を開いて’ (Do your schedule) 等と声かけする
(Cues to begin working)
3.最初のスケジュールは必ずほうびで終わること。
好きなお菓子であったり、お気に入りのおもちゃであったり、とにかくほうびで終わる。これもスケジュール表の
最後のページにそのお菓子の写真がはってあるという方法で、スケジュールを終了した=お菓子と区切りがわかるよ
うになっている。
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私としては、まず学んできたことを出来るだけ客観的にレポートしてから、最後に少し私見と言いますか思ったと
ころをメールさせてもらおうかなと思っています。
紹介した例は学校に入学したばかりの3歳児で、発語もまだなくABAも全くの未経験なお子さんでしたから(つ
まりアクティヴィティ・スケジュールを始めたばかり)、本当に手取り足取りという感じにとれたと思います。
従いまして、ABAを既に実践されている方、ABAで順調にお子さんに成果が表れている方が、その段階から始め
る必要は全くないわけです。つみきの会にはロヴァース博士のミー・ブックをベースとしたABAという前提がある
わけですから、そこに書かれていることの重要性は言うまでもありません。逆に言うと、違いのあるところで興味深
そうなところをあえて、ひろって紹介しています。
誤解があるといけないので、念のため説明させてください。
アクティヴィティ・スケジュールというプログラムの中で、ロヴァース博士のABAにおいて重要な位置をしめる
不連続試行訓練(discrete trial training)という方法と今回、紹介しているインシデンタル・ティーチング
(Incidental Teaching)という方法は、どちらも重要で必要だということです。
とりわけ、初期段階においては、むしろ、前者の比重がはるかに大きいといえます。
インシデンタル・ティーチングを始める前提条件をご覧いただけるとわかると思いますが、そうした前提条件を整え
たり、基本中の基本のことを子供に教えるには、ミー・ブックに書かれていることが本当に役立つと思います。
今回のワークショップの先生達も、ロヴァース博士のことをきいた時には、’He is great' と言いますし、
’ABA=ロヴァース博士の提唱している方法’ と理解している人たちがアメリカでも多いようです。
但し、これはABAのことを知っている人たちの場合で、私が思っていたほど、アメリカにおいてABAが一般的
に知名度があるわけではないようです。カリフォルニアやニュー・ヨークをはじめとした進歩的な地域では広まって
いるようですが、他の地域ではそうでもないようです。 <H.K>
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